介護の一工夫
ケアコート日誌

「ありがとう」

聞いたことがあるかも知れませんが、こんなデータがあるそうです。
「ありがとう」と沢山言う人は、ストレスをあまり抱え込まず、幸福度も高い傾向がある――「ありがとう」には、不思議な力がある。こんな言い方も、されることがあるようです。
ふだん、何気なく使っていますが、感謝を伝えるだけでなく、自身も心地よく感じたり、相手を元気づける力もあると――改めて言われると、そんな体験があるような気もします。
ただし、一方的に言う側になってしまうと、(言うばかりで言われることがなくなると)気持ちも萎縮してしまう。申し訳ないような感覚がつきまとい、心からありがとう、とは言えなくなってくる――状況としては、要介護、介護される側、と重なるところがあるかと思います。

さて。
今回は(というか今回もですが)、小さなエピソードから。

「何か、することがあったら、まだやるわよ。」
リビングで、たたみものをしながら、仰る入居者様。
タオルやエプロンをたたむ、といった手仕事をして下さるのですが、時々物足りない様子。
「もうないの?」と言われるにつれ、思いついた、いや思い出したのが、お茶の葉をお茶パックに入れる作業。もうずいぶん前ですが、手仕事を好まれ、行っている方がいらっしゃったなあ、と。栄養課に問い合わせると、今はどのユニットも一律、すでにティーバッグに入ったお茶を使っているとのこと。
応相談、ということで、茶葉のみを届けてもらえるようになりました。コスト的にも、こちらの方が安いとのことで、一茶両得感もあります。

日々使うものなので、なくなれば、また作る必要が出てきます。
最初は、お一人の言葉がきっかけで始めたのですが、他の方も手伝って下さるようになり、お二人でうまく分業しながら、作って下さるようになりました。
数か月たった頃、入居者様のほうから、「あれ、お茶、まだあるかな。」と聞かれたり、こちらからお願いした際、「そろそろ、なくなる頃かなーと思ってたんだよ。」と返ってきて、お互いなんだか、にっこりしてしまうことも。

一方で、隣のユニットでは、たたみものをして下っていた方が、あるとき「ほんとは、あまりやりたくない」とこぼされたことがあったそうで、今はお願いしていない、ということがあったりもします。
ただ、その方も、他の方と一緒にお話しながら、何かするのは嫌ではないご様子。

ちょっとした時間に、こんな手作りもされています。
あとで思うと、手仕事自体が嫌になったのではなく、たとえば一人きりなど、依頼されるシチュエーション、もしかしたらこちらの言葉足らずもあり、その積み重ねがあったのかも知れません。

ありがとう。
この言葉が、一方通行ではなく。
お互いそれとなく口にしているような環境というのは、互いに居心地の良さがあるようにも感じます。
こうした手作業には既視感(※)もあり、生活感ならぬ施設感が出てしまう部分もあるとは思います。が、自然とありがとうが出てくる、ありがとうの小槌、でもあるのかな、と。余談ですが、小槌って懐かしい(;’∀’)・・昔話にありましたよね・・話がずれました。
(※)既視感とは、実際には一度も体験が無いのに、既にどこかで体験したことのように感じる現象のことです。

手仕事というのは、何かして頂く、という部分ではわかりやすいし、ありがとうと言いやすい事柄ですが、気の向かない方もいらっしゃれば、作業の難しい方もいらっしゃいます。仕事として関わりながら、それぞれの方に、ありがとうと言える場面は・・いやいや無理、という声も聞こえてきそうで、実際そういう場面・時期もあるのが、この仕事だとも思います。個人の感性の領域でもあり、無理に・・言うことでもないですしね。
ただ、発語の難しい方でも、ふと微笑まれたり、柔和な表情に出会うと、ほっとしたり、当たり前のような光景でも、なんとなく、お互いよかったな、と思ったりします。小さな肯定の感覚。それもまた、ありがとうなのかも知れません。

『発語の乏しい入居者様。 思っていることが伝わらない、もどかしさ。時に立腹される。怒りの感情は伝わるが、その方は何を思っているのか・・やり取りのうちに時は過ぎる。 就寝の時、その方は私の目をじっと見て、 「こんな・・・やっかいもので、すみません・・・ありがとう。」と言われた。
「私も、色々すいません・・ありがとう。」そう言って、その方の部屋を出た。 身近にいる人に、否定され続けたら、人は生きていけない。心が死んでしまう。何の映画か思い出せないのですが、そのセリフだけ妙に残っていて、人目の少ない夜勤のときは、その言葉を思い出すことが、よくある。』
古いツイートを思い出して、引っ張ってみました。色々ですね。うまく言えないけれど、そう口にしていることもある。

ありがとう。

そんな心境になれるかの根底には、働く環境、職員も含めた人間関係も大きいのだとも思います。

また、更新できるときがあれば。 拙いところも多々ですが、最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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