介護の一工夫
ケアコート日誌

手紙を、したためる

「さみしさのつれづれに 手紙を したためています あなたに・・」
これは最近、入居者様と一緒に歌った歌のひとつです。
調べてみると「心もよう」という曲で、井上陽水さんの作詞・作曲。カバーで歌われることもあったようで、それで私も、どこかしら聞き覚えがあったのかな、と思います。
手紙を、したためる――私自身は、長いこと書いた記憶がありません。レンジであたためることはあっても、手紙をしたためることは、なかなかないです・・
ただ、この仕事をするなかで、入居者様の代わりに手紙を代筆することは、何度もありました。昔なじみのご友人や、ご家族へ。ご本人から言葉を聞いて、文章を確認しながら、時に思い出話など伺いながら代筆するのは、感慨深い、そんな感じがすることもありました。

こちらは、最近Sさんが描かれたものです。

日中、テレビの前で過ごすことの多いSさん。静かにご覧になっているので、職員の手はどうしても、動きのある方、訴えのある方のほうにいってしまいがちです。
何かないだろうか――と、思い当たったのが、七夕の短冊。ご自身の字で、温かい言葉を書かれていて、はっとさせられたのを思い出しました。
字を書くのは嫌いではないご様子。改めて伺うと、昔は、日記をつけていた時期もあったような、そう思える会話もありました。
紙を用意すると、多少の間違いはあっても、日付けなどを書かれたり。最初に書いたのは、どうやら、昔の住所のようでした。思い入れの深い場所だと、お話から感じられました。
続けてみてもいいのかな、と。試しに、ノートを1冊用意。すると、日記のような感じで使われることもあり、ちょっとしたコミュニケーションツールに。
Sさんのサマリーをよくよく見ると、水彩画を好まれていた、という小さな字を見つけました。他の方と一緒に、季節の絵でも描いてみませんか――とお誘いしたところ、かなり長い時間、熱心に描かれていました。始めの絵は、そのときのものです。

テレビのあいまに、時々字を書く。絵を描く。
ちょうど、秋を題材にした絵を数枚描かれた頃、ご家族様から手紙が届きました。お渡しすると、ちょっと不思議そうな表情。少し代読すると、「ああ」とご自身でも読み始められ、ご兄弟のお話も伺うことができました。
手紙の返事は、どうだろう?
Sさんに聞いてみると、即答で「書きます」と。
ただ、いざとなるとペンが運ばないご様子。
時間がたって、また気が向いたときにしましょうか、と私が言うと、そこは「いや、書きます」と。
やがて、数行。時間をかけて返事を書かれていました。Sさんにも確認しながら、絵手紙も添えて、ご家族様に返信する運びとなりました。

そして後日。ご兄弟の方から手紙が届きました。届いた手紙には「うれしかった」との言葉がありました。Sさんはその日、手紙を手元から離さずに過ごされていました。

字を書く、という何気ないところから始まり、好きだった絵であったり、人とのつながりであったり。小さなことかも知れませんが、何かつながっていく感じ。ここで過ごすうちに、笑顔が増えたこと。こちらもちょっと勝手に、一緒に、嬉しい気がしました。

書くというのは、幼少に覚えて、ずいぶんと長く使うスキルなのだと思います。
もちろん、苦手な方、嫌いな方もいますし、それぞれですね。
ご自身で手紙を書いていた方が、字のゆがみに気落ちされたり、手が思うように動かなくなったのを自覚され、「もう充分。あなた、書いて。」と。長い人生のなかで筆をおく、そんな時間・場面をともにすることもありました。
ユニットには、それぞれ認知症のある方も多いですが、○○は難しいだろう、というのは思い込みで、たとえば何かのきっかけで達筆な字を書かれて驚いた、というのはよくあることです。これも、書けなくなったのが書けるようになった、ということではなくて、何か大きな分断がそのままになっていて、環境次第、関わり次第な部分がある、ということの一部なのだと思います。
何ができるのか、できることを見つける、といった視点で私たちは関わったりもしますが・・それは、何か大きな分断がそのままになっている状態を私たちも感じて、その方が、その方自身とつながる何かを見つけようとする、ということなのではないかと思ったりします。

今回は、手紙のエピソードを少し書いてみましたが、このあたりで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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