ひまわり

自分なりに大事にしたい。仕事の中でそう思うことが、はっきり見えていることもあるし、ぼんやりしてしまうこともあります。ともすれば忙しさの中で、そうした思いが飲まれてしまったときに、ふとした同僚との会話や、入居者様との関わりの中で起こる出来事が、ハッとそれを思い起こさせてくれるような・・そんなことも、時にはあります。
さて。ええと、何を書こうとしてたんだっけ・・ゆっくり考えて、やっと思い出すこともあります（笑）。
今回も、小さなエピソードを交えて、少しばかりですが、お付き合い下さい。

施設に新しい方が入居されるときは、事前にサマリーと呼ばれる生活歴等が記載された情報を職員間で共有しますが、入居後に「事前の情報と違う」ことがあります。今は、情報確認方法の変更やオンライン面等の活用により、情報のちぐはぐさは減ってきたように感じます。
Cさんは、一年ほど前に入居された方。新しいこと、一つ一つの介助に強い不安感があるとの事前情報でした。できるだけ安心して頂けるように。言葉でいうのは簡単ですが、時間をかけて、随所随所にそれとなく気遣いしながら、Cさんも職員もお互いに慣れていく・・そもそも誰にとっても、初めての場所や人は不安があるものです。
Cさんは、入所時はオムツのご利用でしたが、介助すれば立ち上がれる方との情報でした。トイレにお連れしたい、でも強い不安がある。スタッフ同士で検討しCさんのお気持ちに沿って無理がないように、時間をかけて生活にそしてスタッフに慣れていただけるように過ごしていただきました。
そんなある日、スタッフの声掛けに応じて下さり、トイレに座って頂くことができました。その後は徐々にトイレに通うことに慣れ、ご自身で『トイレに行きたい』と仰ることも多くなりました。残念ながら現在は、病状の変化もありトイレには行けなくなってしまいました。ただ、こうした出来事は、私たちにとって、何か、ささやかな何かを頂いた気持になります。もちろん、入居者様は、スタッフに何を届けるために居るのではないし、スタッフの満足感のために居るわけでもありません。それは重々理解しながらも、お互い微笑むことができるような出来事には、一緒に喜んでいます。
トイレに行けるようになったCさんですが、精神的に不安定な時期が続きました。食事が来ても起きるのが「いやだ」と仰る。そのため食事の摂れない時間が続き、体調を心配する状況になったこともありました。スタッフとの会話で、何とか了承をいただき、起きることができると、食事を召し上がる。『手伝ってほしい』と仰るときに介助をして、ご本人が自身で召し上がれるときは見守りをして・・・そんなやり取りのなかで、徐々に起きるのが『いやだ』と仰ることが減り、ご自身で召し上がるようになっていきました。
本人の意思。言葉どおりご希望通りに対応すると、トイレには行けず、起きないことが続き、高齢である身体に大きな影響が起こります。『いやだ』という言葉は、○○だったら起きる、ということなのかも知れない。その○○を探すようにコミュニケーションをする。ただ、本人の生きる気力が少なく見えるときに、だれのために？ということは自問し迷います。もっと学びがあったり、経験のあるスタッフなら、パッと正解がわかり、迷わず動けるのかも知れない、そんなことを思いながら。
また、もっとその人の死生観を知る、触れる、ということがあったなら、こちらの迷い方も、変わってくるのかも知れません。施設では、そうした聞き取りの取り組みも始まっています。ただ、言葉にした思いというのは、けして不変のものではなく、年がたつにつれ、別の経験をするにつれ、変わっていくものだと思います。その方が今、どう思われてるのか。発した言葉は、言葉通りのものなのか。今、その方に一番関わっている私たちは、どう感じるのか。関わりのなかで、答えが出来ていくように感じることもあるし、迷いだせば、迷いが迷いを呼ぶようでもあります。
私が夜勤明けの朝食後に下膳や服薬介助などの対応をしていているときでした。リビングで、Cさんの声が聞こえました。『○○さん（職員の名前）、もう、寝たいんだけど」と私の名前を呼ばれました。今まで、名前で呼ばれたことはなかったし、Cさんが誰かを名前で呼ぶのを聞いたことがなかったので、不意をつかれたような感じがしました。ちょっとくらい、喜んでいいのかな。じわじわと嬉しい感じがしました。
リビングの介助が落ち着いたあと、思わず、Cさんのサマリーを見て、ここにいらした日を確認してしまいました。約11か月。それだけ経って、初めて、名前で呼ばれたんだな、と。
数日後、もう一度、Cさんに名前で呼ばれました。その時は、嬉しさというよりも、重みのようなものを感じました。

何か写真を一枚、と思って、ひまわりがいいかな、と。
今年の夏は、暑い、としか言いようがない日が続きました。ひまわりが咲いていたのを思い出すと、ほんの少し、背筋が伸びるような、元気が出るような、気もします。(自分にとっては、そんな出来事だったからかも知れません。)
さて、ええと・・（苦笑）。
季節は変わり秋？らしくない天候が続いています。というよりは、暑い。そんな日々です。皆様、どうぞ健やかにお過ごし下さい。今回はこの辺りで。